構想4年からのロケットスタートを実現、
サッポロホールディングス様が描いた全社員参加型のDX構想とは
左から林様、安西様
(公開日:2024年4月30日)
酒類、食品・飲料、不動産など多岐に渡る事業を展開されているサッポロホールディングス様では、2022年にグループ全社でのDX推進を宣言し、DX・IT人財の育成に力を入れていらっしゃいます。どのような構想でDX・IT人財を育成し、その中でトレノケートの研修プログラムを活用されているのでしょうか。DX推進の狙いや背景、研修プログラムの全貌と生まれているシナジーについて伺いました。
お客様概要
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今回お話をお伺いした方
DX・IT統括本部 DX企画部 推進グループリーダー
安西 政晴 様
DX・IT統括本部 DX企画部 リーダー
林 佐和子 様
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「このままでは、間に合わない」
危機感を背景にロケットスタートしたDX推進
ー まずは、DX・IT統括本部 DX企画部の役割とサッポロホールディングス様が現在グループでどのようにDX推進に力を入れていらっしゃるのか教えてください。
安西様
弊社グループでは2023年からサッポロホールディングスの中にグループ全体でデジタルシフトを推進するDX推進部門と、グループ全体の情報インフラ整備、通信ネットワーク整備を担うIT部門を統括するDX・IT統括本部を置き、酒類事業、食品・飲料事業、不動産事業の各事業会社にあるDX推進部門、事業部門と連携しながらDX・IT施策を推進しています。DX・ITを同じ部門で統括している背景としては、"攻め"の施策を考えるDX部門と"守り"の施策を考えるIT部門が連携することによって、よりプラスの効果を生み出せる組織になると考えたためです。組織規模としては、DX部門が約20名、IT部門が約40名と協力SI会社の社員40名ほどで、全体で約100名のチームとなっています。
「潤いを創造し 豊かさに貢献する」という経営理念を元に掲げたグループの中期経営計画では、2026年まで経営基盤強化の一環として「DX戦略」を重点施策として掲げています。具体的には、昨年発足したDX・IT統括本部を中核としてDX・IT戦略の推進体制、人財マネジメントを整備し、DX・ITの基幹人財(サポータ含む)を900名育成してビジネスプロセスの変革や新規事業分野の開拓を推進する環境を生み出すというものです。2022年には「DX・IT 人財育成プログラム」をスタートさせました。
ー このような形でDX推進に力を入れることになった背景について教えてください。
安西様
大きなきっかけとなったのは、「2030年にAIをはじめとした先端デジタル・IT技術を活用して課題解決できる先端IT人財が圧倒的に不足する」とした国の試算です。これを弊社グループに照らして、グループ内で発生しているDX・IT案件の増加状況などを加味すると、2026年にはDX・IT人財が100人以上不足するという試算になり、現状の組織体制では今後大幅なリソース不足になることが見込まれたのです。
もちろん、DX・IT人財を社内で育成するためには時間も投資も必要になりますが、一方で、社内で人財育成を推進しなければ外部委託した分だけコストが増加するわけです。そのコストは社内育成への投資の比ではありません。覚悟を決めて短期間の投資で人財を育成しなければ間に合わないという危機感から、人財育成施策としては異例の予算措置とスピード感で「DX・IT 人財育成プログラム」を推進することになりました。
DXを推進する最も大きい理由は、デジタルの活用による業務の効率化、働き方の変革です。弊社は歴史の長い会社ゆえに業務管理や情報・データ管理、人事・庶務業務などでアナログな部分が多く、デジタル化の遅れが顕著でした。とはいえ、「酒類・飲料メーカーにDXは必要なのか」と疑問に思う社員も少なくなく、いきなりDXを推進しようとしてもただツールを実装するだけでは機能しません。そこでDXへの土台作りとして2018年から事業会社単位でBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を開始して、まずは非効率業務の見直しとデジタルを活用した標準化・効率化を進めて、2022年までの4年間で約36万時間の業務効率化を達成しました。それぞれの事業会社に即してデジタルを活用した課題解決を進めることで「DXって必要だよね」というムードを作ることができ、2022年には全社的にDXに舵を切ることができました。
取り組みの全体像をお話してくださる安西様 ▲
ー 長い時間をかけてBPRを推進してきたとはいえ、従業員6,000名を抱える大きな組織で、全社的にDXの推進を掲げて大規模な人財育成をスタートさせることには困難もあったのではないでしょうか?
安西様
サッポロホールディングス社長の尾賀 真城が先頭に立ち2022年1月の年頭に「全社DX推進宣言」を全社員に向けて発表したのが大きかったと思います。社長が年頭挨拶の中で時間の大半を割いてDX推進について語ったので、多くの社員は驚きをもって聞いていたと思いますが、中にはBPRによる業務変革へのニーズの高まりから「やっと始まるぞ」と期待を寄せる社員も少なくありませんでした。
そして同年2月には「DX・IT 人財育成プログラム」がスタートして参加者の社内公募を開始。さらに3月には社外に対してリリースを行い、社外連携を開始しています。このロケットスタートでサッポログループが全社でDX推進に舵を切るという姿勢、人財育成を含めてDXを本気でやるんだという空気感を社内外に打ち出せたのではないかと思います。ちなみに、事業会社のDX推進に必要な予算は全てホールディングスで負担するという方針も打ち出しています。これにより事業会社の採算性への懸念を払拭してグループ一丸でDX推進に注力できるようにしています。
ー DX・IT人財を社内で育成する上で、重視しているポイントについて教えてください。
安西様
3点あります。「全社員をDX人財化する」「自社に必要な内容を見極める」「自主性を重んじる」です。DXは情報インフラやネットワークを整備する従来のITと違って全社員が参加して推進するもの。そのため社長を先頭に新入社員まで全員が参加する必要があります。そして、高望みするのではなく社員のスキルレベルや自社に必要なカテゴリーを見極めてDXを推進すること。最後に自分で判断して"自薦"で研修に参加すること。管理職・経営層の研修やマーケティング研修は対象社員を指名する形のものが多いのですが、DX研修はグループ全社・全年代を対象に自分で手を挙げて参加してもらう形にしました。
ー 「DX・IT 人財育成プログラム」がスタートして、社内の動きはいかがでしたか?
安西様
人財育成プログラムを立ち上げた初年度は、応募数への不安や応募者の年代、所属の偏りなどの懸念がありました。特に、応募数については2022年2023年の2年間で基幹人財200名とサポーター400名の計600名の育成を計画していたので、十分な数が集まるか不安だったのです。しかし実際に基幹人財育成研修の公募を開始すると、初年度で想定の倍となる応募があり、所属部署は本社だけでなく工場や営業部門など様々、年齢層も20代から50代まで均等に集まりました。2018年からのBPRの取り組みによって、現場のDXに対する欲求が高まった状態でプログラムをスタートさせたことが功を奏したのではないかと思います。
人財育成の全体像としては、グループ各社、各部門でDXを担当する全社員を対象にしたEラーニングによる基礎的な研修をベースに、DX・IT基幹人財となる人財を育成する「基幹人財育成研修」を行い、さらに彼らの上長となる管理職、担当役員向けの研修を実施。現場からその上司、そして最終的に予算判断を行う役員までDXへの理解を進めることで、既存ビジネスの変革、新たな顧客価値の創出、新規ビジネスの創出を推進する基盤を作り出しています。2022年の成果をもとに、2023年は研修参加者を増やして成果創出への準備に舵を切れる社内体制構築を目指す内容に進化しました。DX・IT推進リーダーは累計200名、DX・IT推進サポーターは累計700名まで増え、これはグループ全社の各部門に1名はリーダー人財プラス数名のサポート人財が在籍している形になります。
「DX・IT 人財育成プログラム」参加者数の推移 ▲
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ITに関する専門知識を、実際に手を動かして学べる
ー トレノケートはリーダーを育成する基幹人財育成研修の中で参加者共通で受講する基礎研修と専門研修のひとつであるIT テクニカルプランナー育成研修を提供しております。トレノケートを選んでいただいた理由について教えてください。
安西様
基幹人財育成研修では、DXプロジェクトの企画立案・推進を担えるDXビジネスプランナー、データ分析やデジタルツールの実装を担うDXテクニカルプランナー、ITサービスの設計・改善・保守運用などを担うITテクニカルプランナーという3つのカテゴリーの人財を育成しており、トレノケートさんには3つのカテゴリーに共通の基礎スキル研修とIT テクニカルプランナー育成研修をお願いしました。DXの人財育成の中にIT分野の人財育成を組み込んだのは理由があり、弊社のIT部門は情報システム部時代から続く長い歴史の中で所属社員の平均年齢も上がっており、古い基幹システムの保守については属人化やベンダー任せの状態が進んでいるという課題もありました。そこで若手社員を育成して基幹システムの刷新を含めてDXの基盤を強化したいという狙いがあったのです。
ただ研修会社を選定するにあたって、実はIT分野に強い会社さんというのが少なかったのです。DX分野の研修を提供する研修会社はたくさんあったのですが、そうした会社はIT分野までカバーしていない。「IT分野についてはベンダーさんに研修をお願いしてください」という形だったのです。IT部門に配属になった人が受けるような研修はあっても、全社員を対象に実施できるIT研修がなかった。一方でトレノケートさんの研修はこうした課題をカバーできる研修プログラムを提供してくださったので良かったです。
林様
安西が言う通りIT系の研修を専門的に行う会社さんの選択肢が少ない中で、トレノケートさんにはIT分野の研修における実績と知見が豊富にあったのと、今回のIT テクニカルプランナー育成研修ではクラウドの知識やサーバー運用の深い知識を実践的に研修の中で学べる機会を提供いただけるとのことで、そうした研修内容への期待も大きかったです。IT分野の専門知識は実際に手を動かしていかないとやりがいが生まれず離脱してしまうのではという懸念もあったため、実際に見て、触って覚えるというプログラムのご提案が非常に良いと感じました。
ー 実際にIT テクニカルプランナー育成研修を実施して、どのような気づきが得られましたか?
安西様
実は、トレノケートさんに実施していただいた研修が非常に内容のレベルが高くIT統括部の社員すら知らないようなとても先進的な内容の研修でしたので、2023年研修対象者の中には研修についていくのが大変なメンバーもいました。今年は、トレノケートさんに事前に面談をしていただき受講者のスキルレベルを確認してから研修プログラムを進めていく形に改善していくほか、IT テクニカルプランナー育成研修についてはIT部門への配属を前提にして指名式の研修に変更していく予定です。ただ、IT部門のリーダークラスを目指すためにはトレノケートさんの研修についていけるレベルのスキルが必要だということもわかったので、今後もぜひお願いしたいと考えています。
林様
受講者からは「高度な技術習得ができた点がよかった」という声が多く寄せられています。内容はより専門的な高い研修でしたが、トレノケートさんには専門性の高い講師の方が多くいらっしゃいましたので、わかりやすく丁寧に説明していただいた点やテキスト以外の質問にも親身に答えていただいた点も受講者から好評でした。AWSやMicrosoftの講師としての認定資格を持っている方や書籍出版実績のある方が講師をしてくださった点も、受講者のやる気につながったのではないでしょうか。先ほど申し上げた通り、実際に手を動かしてサーバーやネットワーク機器を触って学べる環境を提供いただいた点も受講者にとって大きな学びになったのではないかと思います。
ー 受講者の中にはスキルレベルの高い方もいれば研修内容についていくのに苦労される方もいるのではないでしょうか。こうしたスキルレベルの差を研修の中でどのように埋めていったのでしょうか?
林様
おっしゃる通り、IT部門の社員もいれば営業部門の社員もいて、受講内容の理解度にばらつきが出てしまうこともありました。その中で、内容を理解できた社員が他の社員に教えたり、受講者だけで座談会を開いて学んだ内容を復習する機会を設けたりといった動きがあったのが印象的でした。受講した社員同士でコミュニケーションを積極的に取りながら主体的に支え合って学んでいくという点は非常によかったと感じています。
現場の声をお話してくださる林様 ▲
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「DX・IT 人財育成プログラム」の卒業生が早くも社内で活躍
ー 「DX・IT 人財育成プログラム」がスタートして人財育成が進んで、グループ社内ではどのような効果が生まれていますか?
安西様
DXを活用した業務効率化、新規事業の創出を目指す社内コミュニティ「DXイノベーション★ラボ」の動きが本格化しています。具体的には、AIを活用してビールやRTD(缶チューハイなどの商品)の需要を予測して供給量を最適化することで業務効率の向上と賞味期限・納入期限の短いビール商品の需給ギャップを解消する仕組みを実現したり、人気商品「男梅サワー」の顧客ニーズをAIが分析してフレーバーを決定した新商品「男梅サワー 通のしょっぱ梅」を開発したりしています。こうしたプロジェクトは、「DX・IT 人財育成プログラム」を受講した社員たちが中心になり仲間を集めて推進していきました。これまで需要予測と生産管理、新商品のフレーバー企画などは人の感覚に頼っていましたが、当たり外れはあるもののAIによって今まで考え及ばなかったような答えが出てくるのが非常に興味深いと思います。トレノケートさんの研修プログラムを受講した社員も続々とプログラムを修了していますので、今後社内で様々な成果を生み出していくものと期待しています。
また、研修の受講生の中から新規ビジネスの端緒も生まれています。「DXイノベーション★ラボ」ではスタートアップ企業と連携した共創型ワークショップを展開し、新規事業の開発をスタート。5ヶ月のプログラムで約80の新規事業テーマを創出し、16個のプロトタイプを開発しています。そのほか、この「DXイノベーション★ラボ」ではグループ各社・各部署から寄せられた業務効率化などの課題を参加している社員やパートナー企業に全てオープンにしていて、研修を受講した社員たちが必要に応じてパートナー企業とも協業しながら課題解決とDX推進を現場の自走で実現できるコミュニティが生まれつつあります。
ー 今後の人財育成の展開とトレノケートへの期待についてお聞かせください。
安西様
今後はリーダーを育成する基幹人財育成研修をさらに進化させて、リーダーの中からさらに高度な専門知識を持ったDX高度人財をまずは10名ほど育成していきたいと考えています。この研修の内容はかなり高度なものを想定していて、彼らは社内の各部署で専門知識をもとに社員にDXに必要な知識を提供していく"DX推進役"の社員として、またイントレプレナーとして社内で新規ビジネスをゼロから立ち上げるといった活躍を期待している人財です。その中で「クラウド・ネットワーク活用人財」の育成については引き続きトレノケートさんに研修をお願いする予定で、この研修では外部のスタートアップやITベンダーと同等のスキルレベルを備えた社員を育成することを想定しています。そして、ただ研修をするだけでなくDX高度人財が連携してグループシナジーを創出する新しい領域の事業やサービスを生み出していくことも、研修の中に組み込んでいきたいと考えています。
林様
今年度はIT部門への配属を前提としてより即戦力として活躍できる人財の育成を推進していく予定ですので、配属後にすぐ実践できるスキルを身につけられる研修にすべく、トレノケートさんとは引き続き密にコミュニケーションを取りながら進めさせていただければと考えています。弊社IT部門の業務内容や配属後に実践する予定の業務などもご理解いただきながら、より高度な人財の育成を一緒に進めていければと思います。
安西様
私たちがDX・IT基幹人財、DX高度人財の育成に注力するのは、彼らが新規事業を生み出すだけでなくそれぞれの事業会社の現場で"DX推進役"として活躍してくれるからです。DXのインパクトを業務の現場で実感するためには、一部の人だけが知識を持ちツールを使いこなすだけではいけません。現場の業務に即した形で様々なツールを使いこなせる人財を各部署で増やしてボトムアップしていくことが重要です。現在、基幹人財育成研修で学んでいる社員は、業務現場にDXの知識とスキルを実装するリーダーとして活躍してほしいと思います。
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今回の事例で採用した研修
| 基礎研修 | ITテクニカルプランナー育成研修 |
対象 | 全社員 | 選抜された社員 |
研修内容 |
- ITスキル基礎(Di-Lite対応):4日
- クラウド製品知見:1日
- DX推進手法の基礎:1日
- プロジェクト管理:1日
|
- ネットワーク基礎:3日
- ITインフラ構築実践:3日
- ITインフラ運用実践:2日
- ITシステム基盤 機能/非機能要件:1日
- 情報セキュリティ対策実践:2日
- クラウドアーキテクト:2日
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