アジアのIT人材事情概況

---まず、皆さんが拠点とされているタイのIT人材事情についてお聞かせください。
吉田氏(以下吉田) SI系で需要が高いのは、Javaや.NETのエンジニアでしょうか。タイの業務系システムはマイクロソフト技術が使われていることが多く、開発は.NET環境が多いようです。
越氏(以下越) そうですね。特に、Microsoft Dynamics AXの技術者は給与水準が上がっているのが目立ちます。3割程度上昇している印象です。
---タイでは、マイクロソフト系の業務システムが多いのですね。
越:マイクロソフト技術者は比較的多いと思います。日本に比べてタイは工業系の大学が限られているのですが、主要な工業大学でマイクロソフト社の講座が開講されていて、SI系のエンジニアを目指す学生が大学で履修しています。
吉田:もちろん、Javaエンジニアも多くいます。最近は、JavaからWebやAndroid系に行く人が増えていると思います。
---タイのIT事情はどうですか?クラウドサービスの利用状況は?
中島氏(以下中島):増えてはいる印象です。昔に比べ、「クラウドで」という話が通じやすくなってきました。インフラ整備が整ってきたことも背景にあると思います。5年ほど前には、1日に数回、回線がダウンすることもよくありましたが、今はそんなことはなくなりました。少なくともインドネシアのように、雨が降ったら不通になる、ということはありません(笑)
---インフラ系の企業も事業の拡大が見込まれそうですね。
越:そうですね。データセンターやネットワークのバックボーン周りの仕事をやっている企業があるのですが、そこを借りて新しいビジネスを立ち上げているという話もよく聞きます。大学でネットワーク系の技術を学んでくる学生や、CCNAなどの資格を取得する人も増えてきています。
---大学で学んでくる若手エンジニアの技術力はどうですか?
越:タイでは、そこまで技術力が高いという印象はありません。ITスキルに関して伸びている領域はあるのですが、市場で伸びている領域や好きな領域を局所的に学んでいる感じです。まだまだ発展途上ではないでしょうか。
吉田:ベトナムの人は勤勉でエンジニアの質も高いと聞きますね。
越:たとえばハノイ工科大学では、日本語のできる高度IT人材の育成にも力をいれていますね。
---IT人材は、憧れの職種と言えるのでしょうか?
越:憧れの職種かどうかは微妙ですが、給与水準は高いと思います。
吉田:特にWeb系は、給与が圧倒的に伸びています。
越:業務系のエンジニアは大企業に所属するケースが多く、安定していますが給料の上りは緩やかです。Web系のベンチャー企業は勢いがあるので、給料上昇が大きいし、出世も早いでしょうね。
日本企業の進出具合について

---在タイの日本企業は実感として増えていますか?
中島:未登録企業を含めると7,000~8,000社あります。2014年の後半は日本からの視察も多く、かなりの企業が事業の立ち上げ、推進の段階にきているように思います。
越:日系企業の大型の進出は減って、小型の進出が増えているように感じます。
---そうすると、日系企業が現地でIT人材を採用することも増えますね。
越:増えていますね。企業が小型化している分、数は増えています。「1、2名の採用で安い人、できる人を採りたい」というようなケースはたくさんあります。
吉田:IT系の企業では、立ち上げは日本のエンジニアが行い、軌道に乗ってから現地のエンジニアを採用、という流れが多いようです。
---現地人材の採用はどのように行われていますか?資格保有など基準はありますか?
越:資格保有者はそれほど多くないので、採用時に技術力を判定するのは難しいですね。やはり、人からの紹介で採用したり、面接に自社のエンジニアが同席し、突っ込んだ技術的質問をしたりして判断することが多いのではないでしょうか。
吉田:それでも、「できます!」「知ってます!」という基準が日本人と違いますよね(笑)。もちろん悪気があってそうしているわけではなく、国民性でしょうが。日本人は自身の能力を過小評価しがちです。
---活躍の場をタイに求める日本人エンジニアが出てきたり......?
吉田:今のところ日本からタイへ来る場合は、管理する立場でタイにくるケースがほとんどですね。現地のエンジニアへのディレクションをしたり、プロジェクトマネジャーとして管理したりという立場です。
---逆に、タイから日本へ渡るIT人材が出てきたり......?
中島:日本に留学して日本語や技術を学んで戻ってくるケースは多いのですが、就職のために日本に行く人はほとんどいませんね。日本語ができて、ITエンジニアとして能力が高いなら、タイで生活した方が高給を得られるので、日本には行かないのだと思います。
---他の国の状況はいかがですか?
越:ベトナムも伸びていると思います。オフショア開発も増えていますし、先ほどのハノイ工科大学の卒業生は日本で就職する人もいるようですよ。
吉田:フィリピンはITエンジニアの数が多いのですが、英語ベースなので圧倒的に欧米向けの仕事が多いようですね。
「アジアで働く」ということ

---アジアで仕事をする意義は?
越:個人的には、バックパッカーとして親しんだ東南アジアに貢献したい思いがあります。一方、2015年の日本の成長率予測は0.9%であるのに対して、アジア全体では5.7%が見込まれており、約6倍の差があります。この成長する力を日本へと還元することも意義に感じています。
吉田:アジアで仕事をして改めて思うのは、日本のビジネスマンは非常に優秀ということ。もっと海外で活躍の場があると思います。アジア、海外で得たものを日本に伝えるとともに、自分が架け橋となって、多くの日本人が海外で活躍するサイクルを作りたいという使命感を持って取り組んでいます。
中島:緩やかな成長曲線を描く日本と違って、ある日突然発展する国が多いことは、アジアで仕事をする楽しみの一つですよね。いきなり最新技術を手にして、いきなり発展する国があるわけです。各国の歴史や文化、言語、地理的な背景を感じながら、それぞれの国の人と協働したり、発展する過程を共に創っていったりすることには、やりがいを感じています。
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